2008年12月30日火曜日

50:越境河川の水コンフリクト管理・変革研究の動向

IWRMにおいて越境水資源管理は重要な事項であることは既に述べた。今年最後の50回目ということで、water conflict managementの研究動向について書こうと思う。といっても、ドアを開ける程度だが。

小生の少ない経験で国際河川を対象としたプロジェクトは、

1.ヨルダン川
2.チグリス・ユーフラテス川
3.ナイル川
4.メコン川・紅川
5.シルダリア・アムダリア川

ぐらいだろうか。そのため世界の国際河川の越境水管理の実態とか越境RBOの実情など参考にすべき事例もいろいろ調査したが中々組織的に調査研究している機関は意外と少ない。

さて、94年ごろだったろうか、日本の研究者がアメリカのウォルフ教授と論文を書いていたが、そのウォルフさんがプログラム責任者として実施している「越境水管理に関わるプログラム」がオレゴン州大にある。水資源・流域研究所という。世界の20近くの大学と連携していて確か東大も参加しているはずだ。

国際河川でどのようなコンフリクトが発生し、それをどのように解決したか、或いは解決しようとしているかがケーススタディーされている。お馴染みアフリカのセネガル、解決されないアラル海流域、メコン、などなど。大量の情報があるのが良い。RBOの実態もよくまとめられている。テキサス大のマッキーニー教授も世界の越境河川に詳しいが彼個人の活動であるためオレゴン州大と比べると見劣りするが。

暇な方は覗いて見るといいかも。IWRMの総論でなく、時には各セグメントの課題をじっくり調査研究することも必要だ。

49:CAという研究

略語で表現された言葉には注意せよ、という感覚を持っているが、IWRMに関してはCAという研究がある。

Comprehensive Assessment = CA

01年にご存知IWMIがCAに関わる5年間の研究プログラムを開始した。07年には最終報告書を発表している。01年IWRMのCA委員会は下記の10項目の質問を設定し、それに答える形で報告書を作成している。02年から06年までで凡そ25億円の予算を計上した。報告書のタイトルは、

Water for food
Water for life
A comprehensive assessment of water management in agriculture

1. What are the options and their consequences for improving water productivity in agriculture?

2. What have been the benefits, costs, and impacts of irrigated agricultural development, and what conditions those impacts?

3. What are the consequences of land and water degradation on water productivity and on themultiple users of water in catchments?

4. What are the extent and significance of use of low-quality water in agriculture (saline and wastewater), and what are the options for its use?

5. What are the options for better management of rainwater to support rural livelihoods, food production, and land rehabilitation in water-scarce areas?

6. What are the options and consequences for using groundwater?

7. How can water be managed to sustain and enhance capture fisheries and aquaculture systems?

8. What are the options for integrated water resources management in basins and catchments?

9. What policy and institutional frameworks are appropriate under various conditions for managing water to meet the goals of food and environmental security?

10. How much water will be needed for agriculture, given the need to meet food security and environmental sustainability goals?

農業からみた水資源管理のあり方を考察した冷静で良識的な内容になっている。ビスワスの批判も公正に参照している。

16章にも及ぶ分厚い報告書であるが5年間かけただけのものだ。最終章は40ページ程度で流域開発と管理について論じているのでそれだけでも読む価値はある。あまり統合的ということに意識することなく読むと良い。即ち、comprehensiveという程度が日本人には馴染みやすい。だからといって、integratedを否定するわけではないが。

2008年12月29日月曜日

48:02年ヨハネスブルグ会議でのintegratedという言葉

この02年WSSDでは世界中で国家IWRM計画と水の効率的利用計画を策定することが採択されているが、今までじっくりとP/I(plan of implementation)を読むことがなかった。 手抜かりだったが。

暇にまかせて、integratedの利用頻度を調べてみた。どうもWRMだけに使われているわけではなさそうである。62ページの全文で31箇所程度しか使われていないことにまずびっくりした。

形容詞として使われている対象の名詞は以下の通りだった。

13回:management
 5回:approach
 3回:assessments
 2回:observations
 1回:framework, initiatives, information, manner, systems, database, development, components

流石にmanagementの形容詞として使われることが目立つが、単にmanagementに使われることが3回もあり、また水資源だけでなく流域、地下水、沿岸ゾーン、海洋、土地利用、ハザードなどの管理にも広範に用いられていることが非常に面白い。統合的水資源管理という意味では2回しかない。またintegrated water resources developmentという言い方もありびっくり。その後IWRMだけが特別にプロモートされたのであろうか。

全般的に見れば、P/Iでのintegratedが何か特別な用語には見えないように思われる。かといってIWRMを否定するわけではないのであるが、水資源だけがまじめに捉えたのか?

47:CAIWAというIWRM国際会議

2007年11月に第1回のCAIWA会議が開かれている。欧州議会のバックアップを得た国際会議である。

ご興味のある方はpapersを見て欲しい。適応性のある統合的水資源管理に関わる論文の集大成である。NeWaterの成果も含まれている。全て見るだけでも大変な作業だ。

アジア、アメリカの学者もCAIWA科学委員会に名を連ねている。委員長はドイツ人のDr. Claudia Pahl-Wostl(University of Osnabrück)で女性である。彼女も相当な実務を経験し、多くの論文を発表している。

そろそろ総論から各論に入るべきではないだろうか。勿論、具体的で継続した研究調査結果がないといけないが。

46:Reserve capacityという概念

前回電力システムについて述べたが、電力システムには予備力(spinning reserve capacity)という概念があり、電力ピーク需要に対応すべくピークデマンドの20%程度を予備力とする。国や地域によって幅はあるが。

水供給システムでもreserve capacityという考え方はあるが、電力と違ってそれほどシステマチックに考えられてはいないようだ。自身も実際の計画調査で導入したことはない。

IWRMが気候変動に対応するのであれば、当然このreserve capacityという概念をシステマチックに導入する必要があるだろうなという予感はある(これは余談だが、ダム屋さんは日平均yieldを求めるだけだが水道屋さんは導水パイプラインの計画では日変動を考慮して20%増しの導水量で計画する。これも意外とダム屋さんは気づかないことがある。電力に比べて日変動が小さいためであろう。)。

当然、需要サイド、供給サイド、或いは両面を考慮した水収支計画がなくてはならない。現在WEAPというソフトがDSSとして世界標準である。システマチックな対応と言う点では電力システムは何歩か先をいつも進んでいると思う。

2008年12月28日日曜日

45:Nexus?

ここ何年かで目にするのはNexusである。

Water Energy Nexus(例えば数年前までの中央アジア)
Water Energy Environment Nexus(アメリカ)
Water Energy Food Nexus(今の中央アジア)

連携とか関係でいいだろうか。integratedよりは無理が無い。結びつきを考慮して総合的に考えようよ、という程度か。

さて、energyやenvironmentでもintegrated managementが存在する。energyの場合はwaterよりは具体的・限定的で非常に分かりやすい。environmentについてはあまりフォローしていない。waterと似たり寄ったりだろう。

電力システムの場合のIEMの中身では、下記の例がアメリカにある。

�Complete staffing for core IEM organization
�Overall integrated strategy and program development
�Benchmarking other utilities and energy sector companies to glean best practices
�Lead collaboration with other SmartGrid leadership companies
�Engaged with Electric Power Research Institute (EPRI) AMI-SmartGridcollaboration
�Participate in EPRI-GM-Utility Plug-in Hybrid Electric Vehicle (PHEV) collaboration
�Work with EPRI to identify potential electric transportation technology opportunities
�Participate on Edison Electric Institute (EEI) Efficiency Project Review Team
�Develop strategy and plan for energy efficiency, DSM, AMI and SmartGridopportunities
�Develop comprehensive IEM communication plan
�Develop alternatives for T&D load capacity challenges
�Identify building and office efficiency opportunities
�Align IEM strategy and plan with environmental and climate change point of view

パワーシステムはすっきりしていて分かりやすい。水はそうもいかないのはご承知の通りだ。

ここでいうEPRIはアメリカ電力研究所でこれまで最先端の電力システム最適化を引っ張ってきた。小生は90年代電力システムの施設拡張計画の最適化を担当していたが、EPRIが開発したソフトをベースに行なっていた。その延長戦で考えれば上記のIEMは非常に分かりやすい。

来年のWWF5ではWater for energyがひとつのテーマになっているとWWCの会長であるフォーションさんはこの前東京で言っていた。energy側はどう考えているのだろうか?水道事業でのエネルギー利用は世界で凡そ3%だそうだ。

water for energyとenergy for waterとではずいぶんな相違がありそうだ。

2008年12月26日金曜日

44:水道事業の第3のタップ

数年前に海水淡水化のF/Sに挑戦した。アメリカの塩水湖の調査をして以来淡水化事業には興味があったが、日本には国際基準を満足するのF/S報告書がなかったのでアメリカの例をお手本にした。場所は比国の某都市である。

アメリカのROではカリフォルニア、テキサス、フロリダが有名だ。確かテキサスのF/S報告書を参考にして調査計画を進めた。アジアモンスーン地域でのSWRO(seawater reverse osmosis)適用は少なかったので、シンガポールで進行中のプロジェクトも若干参考にした。

F/Sであるから、水需給計画、立地、原水評価、淡水プラント規模、取水方法、淡水化方法、電力供給、brine排水方法、環境影響評価、概略設計及び積算・工程計画、経済財務評価などを含むことになる。集められた各専門家は確かにその道のプロだったが皆さんF/Sの経験が無いという不安要素もあった。

作業を進めると案の定各団員から代替案比較ができないとの不満が続出した。特にプラント屋さんからはプラントの施設の決め打ち的な最終案だけが出され代替案なしという状況であった。事前処理、淡水生産効率の決定、後処理方法など丁寧に説明し、何とか了解していただいた。生産効率(淡水回収率)については最後まで60%だと強硬だったが、元デュポンのROの開発者であるモッチ博士から頂いたコメントを告げると、直ぐに幅を持たせた生産効率の検討をして頂いた。権威の言うことには弱いらしい。ただし、コストについては積み上げできないという有様だった。これについてはモッチ氏から直接手ほどきを受けた。彼は80歳近くだと思うが大変お元気で自ら現地に出向こうかという熱心さだった。彼はROの発明者だが1コンサルとしてのスタンスを維持している方である。

逆に、プラント屋さんからはROプラントの技術的な検討課題の「ツボ」もたくさん頂いた。まあ、give and takeだ。

SWROの場合はROの高圧ポンプ用の電力コストが馬鹿にならない。全体の30%ぐらいにはなる。O&Mコストと初期投資コスト両面の検討が重要になるわけである。例えば、20年連続運用して、1m3生産するのにいくらかかるか、そんな検討になる。後は水道料金との比較になる。

いつ海水淡水化が表流水や地下水開発案を凌駕するだろうか?そう言っているうちに第4のタップの実施や検討が中東やシンガポール、アメリカなどで進んでいる。所謂、排水処理水の再利用だ。

最後にSWROの欠点と利点。海水にはホウ素(boron)が含まれ通常のROプラント処理ではWHO基準を満たすことができない。経済性を考慮して給水システム上で地下水などと混ぜ希釈するのが一般的である。シンガポールでは希釈する淡水がないので事後処理する。

ホウ素はマウス実験では男性の生殖機能不全をもたらすという。こんな話をstakeholders meetingで言ったら、参加者のお女性陣が「フィリピンのだんなたちにはいいかも!!」と笑っていた。

いつも思うが、フィリピーナは何とチャーミングなんだろうか。

43:もうひとつの言葉遊び(capacity development)

IWRMと同様に21世紀に入って台頭してきたのが、capacity developmentである。以前はtransfer of knowledgeだったのが、capacity buildingに変わり、社会性をも配慮した(?!)capacity development(CD)になった。

IWRMと同じようにいろんな機関や方々がさまざまなご説明をされている。偶々IWRM運動の高まりと一緒だったためか二つをパッケージで学ばせていただいた。

キャパビリからキャパデブとでも言おうか。今でもCDのセミナーに参加するが、発表者の自信のなさを感じるのは私だけだろうか?戦闘的ではあるのだが。

「開発途上国での技術移転の問題点について」の発表を最初に聞いたのは確かアメリカ土木学会主催のセミナーであり、女性の研究者(developmental anthropologistと言っていた)のインドネシアにおける技術移転の人類学的な考察だった。86年ごろか。

欧米のコンサルと一緒に仕事をすると、必ずではないが、キャロライン・ニールソンの「training program workbook & kit」を持っていた。技術移転の参考書として有名だったし、私も良く使った。

IWRMと同様、実務で使える確信的な「CDハンドブック」の登場を期待するところである。無ければ自己流でいいかとも思っている。

42:水資源コンサルになったわけ

80年代初頭に社会人になったが、大学院の2年間で海外で働くコンサルタントへの道をほぼ心に決めていた。しかし、高校卒業までは一貫としてジャーナリスト志望であり高校1年からニューズウェークを購読して英語漬けだった。FENは24時間かけっぱなし。そんな高校時代だったが、なぜか土木工学を目指すことになった。父親が県の農業土木屋だったせいもあるし、海外でのODAに参画していた母方の叔父の影響もあるかもしれない。大学・大学院と交通工学を専攻していた。

大学院では八十島さんが指導教授であった。修士論文は地下鉄路線網計画の歴史的考察だったか。八十島さんのODA調査経験談を面白く聞いたものである。先生の餞別の言葉は、

コンサルタントは、知らない、分からない、出来ないを即答するなかれ。電話一本で知恵を与えてくれる友人を持て。

であった。今は、インターネットが唯一の頼りで、世界中の専門家が知恵を与えてくれる。

そんなこんなでコンサル会社に。ただし物流から水流へと流れの質が変わった。経緯はさて置き、専門外の水商売に入ったということである。

この30年で1度だけプロジェクトで交通計画を実施したことがある。トルコの南東アナトリアで将来の物流と道路配置計画が必要で、MILPを使って20年後のあるべき生産拠点と規模と最適道路配置を求めた。中々面白い検討だったと今でも懐かしい。最初で最後の実務での交通計画である。

交通から水資源への急転換も面白かったが、それから30年。IWRMという奇妙奇天烈な課題に取り組むこととなった。久々に心理学でも勉強し直そうか?!

2008年12月25日木曜日

41:ミンダナオからオックスフォードへ

ミンダナオのIWRMの実態・進捗を調査するチャンスを得たが、流域の基礎指標にWPIという指標があった。Water Poverty Indexだそうだ。数値は平均60、mediumという評価である。 その川は国レベルの支援対象流域として認識されていないというかわいそうな川である。

あまり見慣れない指標であるため、いつもどおりネットで検索。英国のCEH(Centre for Ecology and Hydrology) Wallingfordの研究チームによって開発されたという。resources, capacity, access, use, environmentの5つの項目に対して統計データから意外と簡単に計算されるとのこと。

研究者の一人にサリバン博士がいるが、彼女はオックスフォード大に移籍し研究を続けている。現在は、WPIの他、CVI (Climate Vulnerability Index)もWPIの延長線で提唱されている。WPIとCVIの利用によって、水利用の優先順位やモニタリングを数値的に評価し、気候変動に対する脆弱性を測る取り組みが進んでいる。まだ詳しいことは精査していないが今後の成果が気になるところである。何しろIWRM研究は言葉が先行し、科学的なアプローチが不足している。

サリバン女史が所属するオックスフォード大・水資源研究センターはEUのAM研究プログラムにも参加し貢献度が高い研究所でもある。

比国辺境地のミンダナオで気づいたWPIがまた新しいIWRMの取り組みを紹介してくれた。サリバン女史はIWRM研究者としては数少ない女性だが、LoGoWaterやNeWaterなど精力的に活動している方だ。

漠然としたIWRM論に少し科学的なアプローチが見えてきたか?いよいよIWRMに名門オックスフォードが参戦か?

2008年12月24日水曜日

40:直訳は辞めたほうがよい

はるか昔から不思議に思うのは、多くの日本人が高校時代の受験英語の呪縛から逃れられないということである(注:受験英語でも昔日比谷高校全盛のころ使っていた英文法の教科書は最高の英語教科書で一般の受験英語的なものとは比べ物にならないほど本物の英語でネイティブの教養を凌ぐものだった)。

大学受験まではしょうがないが、大学に入って大量の文献を読んだり、社会に出てネイティブや準ネイティブと協議したり、英語で論文や報告書を書いたりすれば、自ずと実務での受験英語の無力さは気づく筈なのだが。目からうろこ的な経験はなかったのだろうか。 或いはいい師匠がいなかったか。

相変わらず、言葉を1対1写像的に無邪気に変換しているのを良く見かける。或いは英語の内容に矛盾があるので和訳できない、或いはその逆を議論する。矛盾のある文章を矛盾のあるままで他の言語で表現すれば済むことなのである。 これが難しいらしい。

自分の場合は、英語と日本語の論理(或いは非論理すなわち感情的な)演算プロセスは別の脳の部分のような気がする。人格すら変わるのであるから。

人は他人の不備をあからさまに批判したり非難することは少ない。しかし、だからと言って不備や不手際を見逃してはいないようだ。だれも否定していないから問題ないと考えるようでは海外でIWRM論議など出来るわけがない。なんとなく会話しているから英語力があると錯覚している方が多い。 IWRMは人の心に訴えなければ成功はしない。そのツールの英語力に問題ありなのである。

日本人を交えてネイティブと協議したり雑談することがあるが、時々ネイティブとウィンクして無言の了解をすることがある。おかしな発想に霹靂する時の暗号だ。フィリピン人やインドネシア人でもするので彼らも茶目っ気がある。この茶目っ気はある意味余裕のしるしだ。中東人などは激しい激論が好きだが悪意などさらさらない。海外での IWRM計画への関与はカウンセリングに近いと思うがいかがであろうか。言葉は人の心に響かなければ意味がない。

フィリピン人はあの通り発音はかなり問題だが聞く耳はある。だから英米人の会話は問題なく理解する。だからと言って彼らにはそれを真似ることはしないのである。日本では何が正しい英語なのかも分かっていないことが多い。

新聞・本が読めて、映画やテレビ・ラジオで感動し、CNNやBBCが分かり、洒落た歌でも歌えればもうそれで英語力はあるのである。話したり書くのは、聞けて読めなければ成立しない。さらに、 女性を口説ければもう合格点だし、コンフリクトリスク管理のファシリテートや交渉・調停もいよいよ照準に入ってくる。

おかしな英語談義はもう止めてくれと言いたいがまだ止まらないようだ。

直訳は止めて、改めて全体を英語や日本語で表現してみようではないか。

Thunderbirds are go!
Go for broke.

こんなごくありふれた表現でも文法的に和訳しようとするととんでもないことになるのだ。言葉は文化なのである。それと、海外の海千山千の人たち(誰とは言わないが)との交渉は無邪気では困るのである。それが本音だ。海外プロジェクトは戦争だといつも考えている。

Who dares wins!

2008年12月23日火曜日

39:incentive compatibilityの定義

GTZがIWRMやAMで薦めるincentive compatibilityの定義が一番良く理解できるものを発見。お馴染みウィキペディアである。

Incentive compatibility

In mechanism design, a process is said to be incentive compatible if all of the participants fare best when they truthfully reveal any private information asked for by the mechanism . As an illustration, voting systems which create incentives to vote dishonestly lack the property of incentive compatibility. In the absence of dummy bidders or collusion, a second price auction is an example of mechanism that is incentive compatible.

There are different degrees of incentive compatibility: in some games, truth-telling can be a dominant strategy. A weaker notion is that truth-telling is a Bayes-Nash equilibrium: it is best for each participant to tell the truth, provided that others are also doing so.

まさに理想郷だ。

38:IWRM文献検索初級編(巨人の肩の上に立つ)

先駆者の肩に乗る重要性は前に述べた。ここではIWRMに関わる巨人たちを探してみよう。

グーグルにはスカラー検索がありキーワードに関して学術的に頻繁に引用される文献が検索されることはご存知であろう。ヤッフーでもあると思うがグーグルしか使っていないのでここではグーグルの結果である。

「integrated water resources management」をキーワードとしてスカラー検索をすると、上位に既に有名な文献が出てくる。

1.[PDF] ►Integrated Water Resources ManagementGW Partnership - TAC Background Paper, 2000 - cepis.ops-oms.orgPage 1. Integrated Water Resources Management Global Water Partnership TechnicalAdvisory Committee (TAC) TAC BACKGROUND PAPERS NO. 4

2.[書籍] The Blue Revolution, Land Use and Integrated Water Resources ManagementIR Calder - 1999 - orton.catie.ac.cr... 1 / 1 Seleccione referencia / Select reference. Signatura : P10 33. Autor : Calder,IR. Título : The blue revolution land use and integrated water resources management.Idioma : En. P. imprenta : London (RU). EARTHSCAN. 1999.

3.[PDF] ►Integrated water resources management: a reassessment.AK Biswas - Water International, 2004 - geog.ox.ac.uk

1.は御馴染みのGWPコンセプト、2.はIWLRMの名著、3.はご存知ご意見番のビスワス。いずれも引用数では100近い。当たり前の結果であるが、IWRMの「入り口的なお勉強」はこの辺から進めればいいかなと示唆してくれる。

自分の場合は、複数のキーワードで検索できた上位20の文献を徹底的に読み、徐々に絞り込む手法を取っているが忍耐との勝負である。偶々英語の文章も40年間毎日読み続けているのでさほど苦にはならないが、手っ取り場合方法としてはスカラー検索は持って来いだ。

次の段階は、スカラー検索で各文献が引用されている引用元が示されているので、それらをひとつずつチェックすることだ。ひとつのテーマで数十で十分であろう。

キーワードの選定にも注意したい。各論文にはabstractの後にキーワードがあるのでそれらに留意することが肝心。しかし、最終的にはセンスの問題もある。調査研究を複数の人間が行なっているのに、結果として得られる情報の量と質が著しく違うことがよくあるが、これもセンスと熱意、英語力の相違によるものかもしれない。仕事に効率的な道はあるが、楽な道はないのである。英語にしても1日100ページ以上読めれば十分。書くことでは10ページ書ければまず問題ない。1時間当たり10ページ読んで1ページ書く、これがコンサルの日常だ。これを10、20、30年続ければプロになれる。

"Stand on the shoulders of the Giants."

2008年12月22日月曜日

37:MFFってなんだろう?

以前、国際金融用語でデューディリという言葉をはじめて聞いた。due diligenceの和訳の略語である。銀行屋さんはよくこういう略語の多用で素人を煙に巻く。最近、ADBやWBのローン案件でMFFという資金援助手法をよく目にする。

「Multitranche Finance Facility」の略とのこと。ADBのインドやインドネシアなどの案件で最近頻繁に目にする用語である。世銀でもあるようだ。インドネシア・チタルム川の環境評価報告書を最近見たが、これはADBのMFFによる15年間のプログラムであるICWRMP(統合的チタルム川水資源管理プログラム)の「Tranche 1」プロジェクトである。

中期或いは長期の投資プログラムやプロジェクトを支援するもので、ポーションをいくつかのtrancheに分ける。それぞれのtrancheは違った条件でいいらしい。柔軟な融資方法である。

tranche は英語のsliceの意味で元々フランス語のようだ。multi-trancheで多重。

ADBが支援しているインド・オリッサ州の例では、農業開発と水資源開発、IWRM支援など10個近いtrancheに分かれていた。

tranche de vieというと実生活の一片という洒落た言い回しになる。slice of lifeよりはエスプリが感じられる。

2008年12月21日日曜日

36:相模川とソ連の自動流域管理システムの関係?

ここ5年ほど中央アジア地域のシルダリアとアムダリア川流域の水資源管理体制の調査に関わっている。これまで2回ほどこのブログでも紹介したとおりである。

表題の相模川がどう関わっているのか?

今は6カ国に分裂された両河川流域は91年以前はソ連の流域であった。70年から80年代にかけて合理的な水資源利用と管理の問題が浮上し、単一の自動管理システム(AMS)が両河川流域に作られることになった。

ソ連邦の管轄は当時の土地改良水資源省であったが、ソビエト共産党中央委員会令に基づき、86年世界中の自動管理システムの成功例を調査したという。

1.米国加州の水供給・中央管理システム
2.日本相模川の水資源・中央管理システム
3.仏国・プロバンスの分散テレコントロールシステム
4.ソ連のサラトブ水資源コンプレックスのAMS

などが調査対象であった。それらの比較検討については情報がないのだが、なぜ相模川なのかが疑問であった。日本の先端ダム管理運用技術は確かに参考になるだろうが、利根川や他の主要大河川ではなく相模川だったのだ。偶然ソ連の使節団が視察したのが相模川だったのか、或いは海外向けに紹介されたのかは分からない。 或いは特別なAMSがあるのか?

相模川の紹介記事は英文だが元々はロシア語だったのであろう。sagamiではなくsogamiと表記してあった。まさかsogami川は日本にないだろう。

2008年12月20日土曜日

35:IncentiveからAMそしてINRMへ

GTZのDr.フパートの行方はまだ分からないが、彼が04年に参加したGTZのマニュアルに達した。

天然資源とガバナンスに関して、持続的資源利用のincentiveを徹底的に扱ったマニュアルである。GTZとしてはかなりの自信作というイメージを感じる。

誤った資源利用や過剰な開発を進めるincentiveのメカニズムの分析から初めて、より持続的な開発への方向性を考察している。incentiveのオンパレードである。彼は後にIWRMにincentive compatibilityを適用している。

天然資源管理をかじったついでに、新しいingrated何がしの言葉を紹介しよう。まだ日本や欧米でも認知されていないように思える。INRMである。integrated natural resources management。

あっちもこっちもintegratedならば、もうintegratedは無しでもいいのではと穿った気持ちになりました。

オーストラリアのノーザン・テリトリーの場合は05年に州政府がINRM計画を発表している。勿論、AMも基本方針のひとつである。本例だけでは何とも言いがたいので他州或いは他国の例を探索してみたい。

2008年12月19日金曜日

34:IWRM + AM = AIWRM ?!

EUのDSS取り組みについては以前述べたが、別の取り組みもある。

生態系管理用語では適応性管理という意味でadaptive managementというあいまいな概念がある。IWRMと同じで理論から実践という難問を抱えている。

生態系はそもそも複雑系であり不確実性のなかにある。河川流域システムも同様であり、昨今懸念されている気候変動に対応した適応性もIWRMとの関連で議論されている。

EUでは参加国の大学研究機関が40以上集まり、この適応性のあるIWRMを05年以来研究しているのだ。 シナジー効果がでるか、それとも新たなコンフリクトになるか?

中々興味深い論文が多く、IWRMの欠点を無視し、賛美・継承するだけの「やわなもの」ではない。科学的な根拠や理論から実践という難問に真摯に取り組んでいる。

EUの取り組みの動向は無視できない。内容はまた来年に。

2008年12月18日木曜日

33:GTZのDr.フーパートはどこに?

以前紹介したGTZのDr.フーパートに私信を出したところ該当せずとGTZ人事部から連絡が今日あった。亡くなっていないので退職されたのであろう。それほどのお年か、或いは転職されたか?

IWRMに関わるincentive compatibilityには大きな関心があり、彼の書いた別の論文のことをお聞きしたのだが。

まだ諦めず事情を調査してみよう。今日はDHIのDr.フーパーにメールし、多分専門家同士であるからフーパート博士のご事情を尋ねたが、流石に欧米では12月中旬から来年初めにかけてお休みする方が多く、彼もロング・リーヴだ。

こちらも年末年始ぐらいはお休みしたいところだがどうなるか??

2008年12月17日水曜日

32:CALSIMIIの適用で有名な学者が登場するわけ?

31回でCALSIMIIをご紹介した。その中で70年代から活躍のラウスとステジンジャーがレビューアーとして登場し、懐かしさを覚えた。

その実情が分かった。CALSIMIIは北カリフォルニアのベイデルタで展開されている開発計画で利用されている。それはは州政府と連邦政府が共同で進める農業と環境改善プログラムである。00年から実施されている。

このプログラムでは主要なものは全国から集められた専門家のレビューが実施され、ワークショップが開かれプログラムの正当性を示す取り組みがある。CALSIMIIも最適水配分ソフトとして適切かどうか専門家の判断に委ねたという背景があった。

日本で言う委員会方式と似ているが、一般にも広く公開され市民参加型であり、9つの小委員会がある。州のBay Delta Authorityが設立されている。アメリカで最も問題のあった地域であったが、少なくとこのプログラムによって物騒な訴訟はなくなった。94年から6年遅れで実施に至っている。

00年から07年までは大規模なプロジェクトは控えられ、水質改善、制度整備などが中心だ。これらの過程を踏まえ、第2段階の開発へと進むというメカニズムが構築されている。

本プログラムに成果があるかどうかはまだ公式には発表されていない。定性的な評価ではアメリカの国民は納得しないのだ。定量的な成果が求められているが未だ未公開である。 事業実施者にとっては警戒感があるとのことである。

この案件がIWRMとどう関連しているかの評価はない。incentive compatibilityの側面からいずれ評価してみよう。フランスの事例はこれまた来年となる。

2008年12月16日火曜日

31:最適化手法:MILP

久々に線形計画法の最新モデルを見た。

数年前にWEAPがシミュレーターとして全盛で小生もユーザー登録をしている。MIKE11が高水のソフトなら、WEAPは低水の水配分をシミュレートする世界的に有名なモデルだ。

今回はCALSIMIIという加州水資源局とUSBRが共同開発した低水最適水配分モデルである。Mixed Integer LPという。0か1というintegerを使って施設のあるなしを数学的に表現する。非線形な関係は線形化する。動的計画法と比べて、数学的なモデルであるので解はすっきりと求まる(はず)。

CALSIMIIの詳細はまだ見ていないが、適用性の検討をお馴染みの研究者が関わっていた。

コーネル大のラウスとステジンジャー教授
テキサス大のマッキーニー教授

懐かしい名前で、お三人とも有名な水資源システム分析の権威だ。前者のお二人もまだ健在であった。

三人は前述のCALSIMIIの適用性を他のモデルと比較検討し評価している。

MILPも20年近く実務で使っていない。トルコのGAPで水配分と施設の規模最適化検討で、当時ジョンズホプキンス大のコーエン教授のモデルを模してチグリス・ユーフラテス川のダム群と灌漑用水事業との関係を作り上げた。34歳だったから頭脳はまだ少しましだったころだ。 トランク一杯に参考文献を詰め込んでトルコの田舎に持ち込んだ。当時はPCも速度が遅く、ソルバーはLINDOだった。夕方計算を開始し次の日に結果を見た。そんな時代だ。ワープロもワードスター。

今は忙しいので、CALSIMIIの検討は来年にしてみたい。DSSの道具としてまだまだ生きていたのだ。アメリカはまだまだ捨てたものではない。

マッキーニー先生は中央アジア水資源の専門家であり最近も助言を得たし、ラウス教授と共同で先輩が論文を執筆中。コーエン教授と同じJH大卒で工兵隊IWRのユージン技術部長さんは先日お会いしてメールで情報交換している。彼も実はシステム分析屋だ。いつもながら狭い世界の水資源である。

2008年12月15日月曜日

30:「守破離」の歩み

一般的には、「守」は、師についてその流儀を習い、その流儀を守って励むこと、「破」は、師の流儀を極めた後に他流をも研究すること、「離」は、自己の研究を集大成し、独自の境地を拓いて一流を編み出すこととして説明される。

武道における修行が人生に深く関わっている以上その修行には限りがない。すなわち限りなき修行に没入することを最終的には求めている言葉である。

コンサルタントの歩みも「守破離」であろうか。今日は本屋で五木寛之の新書「人間の覚悟」を購入した。その時に、この剣道の極意をふと思い出したということである。

IWRMを研究し実践することは「離」の境地でないと無理なのかなあ、と思うこのごろである。以前若手のエンジニアに「一生勉強だよ、コンサルは」と言ったら、「一生勉強しなくてはいけないのですか?」と逆に問われた。悲しい現実である。多忙のため、水文すらまともに学べない若手コンサルの昨今だから、IWRMの習得など何年ぐらいかかってしまうであろうか。

さてまた明日から勉強だ。

29:EUの中央アジア戦略だった!

これまでにEUのIWRMやドイツの中央アジア越境水資源支援発表などを取り上げたが、なぜドイツなのかが判明した。

EUはこれまでTACISというプログラムで中央アジア水資源の支援を展開していた。昨年ドイツが中央アジア水資源支援を表明、今年11月に正式に3年の支援プログラムの詳細をアルマーティーで公開。

この際に、このドイツの支援がEUの中央アジア戦略の一翼を担うとの説明があった。なるほど。これでEUと繋がった。

EUの地域戦略の下でのドイツ参戦だったのだ。プログラムの詳細は割愛するが、中々抜け目のない内容だ。これまでUSAIDが精力的に支援してきた教訓・失敗をしっかり精査しているように感じられた。国際機関の支援に対して批判的なSIC-ICWCも味方につけている。また、実務的な支援と平行して大学研究も連携して実施する方向である。 民間企業も巻き込み技術移転も図るようだ。官学民の連携だ。最終的にはビジネス的な構想もあるかもしれない。さすがだ!!

しばらくは静観するしかないか?中央アジアの水資源関連支援もUSAIDからEUへと移りつつあるようだ。或いはUSAIDが巻き返しを図るか?ADBやWBの動向も?

2008年12月14日日曜日

28:EUのIWRM研究

フィリピンから帰国した。3年ぶりのマニラと初めてのミンダナオであった。ミンダナオは11年間で始めてであったが収穫は大きかった。フィリピンで最貧の地域であるが人々の暖かさと純朴さは最高かもしれない。JICAの緒方さんがミンダナオ支援を表明しているが、ぜひまた行きたいところである。

さて、EUのIWRM研究であるが、流石にIWRM推進の本拠地である。システマチックなアプローチが伺える。日本では殆ど紹介されていない。

EUがIWRMの独自のterminologyをまとめているが、あまり知られていない機関が含まれている。

1.FAO
2.GWA
3.MNWRU
4.NDWR
5.SAFFIRE

のIWRMの定義が示されている。1.のFAOは有名だが、その他は多分誰も知らないだろう。直ぐにわかる機関ではない。有名なGWPが入っていないのが興味深いところである。定義を吟味する段階は過ぎているので敢えて述べないが、研究の細やかさが見得る。興味のある方はお調べ願いたい。

フィリピンから戻ると、世銀元副総裁のリン博士から中央アジア渇水対策最終報告書のドラフトが届いていた。彼はUNDPとADBのアドバイザーを務めているが、今はブルックリング研究所の所長である。彼に依頼されてシルダリア川の水文についてUNDPやコンサルに助言して以来信頼関係にある。

また、IWAが出版しているEUのIWRMの適用性という最新本が今日届いた。新刊だがアマゾンで格安の本が入手できた。表紙にちょっと傷があるだけで気にはならない。ヨーロッパのIWRM研究の集大成である。これについても随時報告したい。

2008年12月10日水曜日

27:トルコがIWRMを推進する必要性?

数日ブログをお休みするので、次いでながらトルコのIWRM事情をお話しよう。

トルコの水資源開発はおなじみDSIが主体である。国家水利庁(総局とも訳されている)である。水利ではなく水理事業が正解だが最初にトルコの水力開発事業の技術支援で入った電発さんが命名したのが定着したのだろう。長官と訳すべきものを総裁と和訳しているのも当時の電発さんの事例を模したものか。 アメリカで大学教授になったトルコ人の有名な水理学者(名前は忘れたが分かり次第追記する)もDSI総裁だったはずだ。土木技術に関しては一流である。ただし、水文調査計画となるとレベルは低く、EIE(電力調査庁)が優秀だ。

DSIやEIEの多くの友人たちはどうしたであろうか?JICAの調査もなくなりODAの対象でもなくなった。自国資金でのダム建設もそれほど多くはないはずだ。特にDSIの計画局部長のTuncay Soysal氏は昼間はアル中で支離滅裂だったが、ラクを飲むと快調で昔のダム調査計画の苦労話に事欠かなかった。定年後、亡くなわれたかもしれない。 88年から96年までの8年間で連続6件のトルコ案件に関わったが、この12年は全く音信不通だ。

今ではJICAさんの水力F/S調査もなくなったのでDSIの方々も日本びいきの方が少なくなっただろう。DSI本庁の局長以上だけが利用できる特別レストランで毎日お食事を一緒にさせていただいたころが懐かしい。アウェー戦からやっとホーム戦に入ったころだ。

IWRM導入はやはりWWF3前後である。当時からトルコはEU参加を目指していたがEU参加の条件は参加国の種々の基準を満たしていなければならなかった。水資源管理も同様である。所謂、EU水枠組み指令である。そのため、EUからの指導によってIWRM対応のパイロット流域が選定されたというわけだ。

選定されたのは地中海に注ぐBuyuk Menderes川流域である。92年に現地を踏査した思い出深いところでもある。名前の意味は、大蛇行川とでも言おうか。menderesが蛇行が特徴的であったため、英語のmeanderになった。 因みに、Kuchuk Menderesもあり、こちらは小蛇行川だ。トルコ第3の都市であるイズミールに近い。この地は温暖で冬季にはイスタンブールの宮廷から避暑にやってきた歴史がある。

WWF3ではGAPがwater-related projectとして大々的に紹介されていたが、WWF5ではIWRMのパイロットサイトとして紹介されるかもしれない。

IWRMが政治的な取引に使われたとは言わないが、面白い現象である。incentiveはrewardsの場合もあるし、sanctionの場合もある。前出のEUのDSSでは、トルコの水資源管理におけるDSSは今だ未熟との結論があることも面白い。

さて、前出のカザフのIWRM計画の政府承認だが、そろそろ大統領が正式承認するらしいと風の便りで聞いた。

26:フィリピンのIWRM計画の枠組み

行き成り、地中海からフィリピンである。明日から久々のフィリピン出張のためフィリピンにおけるIWRMの動向を見てみた。

UNDPは世界で50カ国ほどでIWRM計画の支援をしている。GWPも同様だがUNEPも支援しているとは知らなかった。UNEPはフィリピンのIWRM推進の支援をしているのだ。日本ではあまり知られていない事実である。

まだIWRM計画の枠組み段階である。フィリピンの関係各機関が参加し、UNEPとGWPのフィリピン部局が支援している。06年11月に報告書が出されている。GWPの影響下にもあるということであるが、計画実施にまではまだ相当時間がかかりそうだ。 DENR、NWRB、NEDA、LWUA、NIA、LLDA、FMB、EMB、DILG、MWSS、DOH、DOJ、MGB、BSWM、DPWH-RWS、PAGASA、BFAR、Water Commons Institute、Stream of Knowledge、UP-NIGS、UP-NHRC、NPC、DOE、DOFが参加している。

世銀が今までNWRBやNEDAにIWRM推進を期待したが中々進まなかった。ADBはパンパンガからビコールに対象を変えるようだ。そのパンパンガはJICAさんが引き受けるらしい。国家レベルでは、DENRがIWRMを主導する気配だがどうなるだろうか。RBOも昔はビコール、アグノ川もあったが今はラグーナ湖だけだ。

セブやダバオではLGUが主体の所謂ボトムアップ型のIWRMが進んでいるが資金や能力の制限があり、初期の段階から次の段階に中々進まない。セブはカナダ(PCEEM)やオランダ(REMIND)が市民レベルのIWRM運動に支援したが、JICAさんが開発調査として開始した。

こうしたフィリピンの流域管理、水政策、組織制度などをお勉強したい方は、

winning the water war

という本をご一読を。290ページにも及ぶフィリピンにしては珍しく分厚い。小生が信頼を置いているPIDSの出版物だ。これも意外と知られていない研究組織である。

フィリピンは英語が得意で議論好きな国だからIWRMは持って来いの対象だが、その実施となると政治的に難しい国でもある。

2008年12月9日火曜日

25:DSSの最新動向

05回でDSSはどうなったのかと述べた。現在世界で最も進んだDSSはEUである、と思う。 というかそれ以外はシステム化されていない。

EUは地中海沿岸諸国に対して、持続的水資源管理のための水統治と技術科学のネットワークを展開し、IWRMと意思決定への学際的なアプローチを推進している。

技術的なサポートと政策的なサポート両面からなっている。既にいずれもガイドライン、計画管理のためのツール、データベースなどが整備されている。 昔はDSSもシステム分析の一派だったが、EUの場合はwater governanceの意思決定支援も入っている。まさにDSSとIWRMの統合だ。

IWRMに関わる語句の定義も充実しており国際機関の定義の違いが一目瞭然だ。これほど完備されたものは見たことがない。

まだこのEU支援のDSSの全容を解剖していないので、いずれ詳細は報告する。世界は知らぬ間に動いているということか。50歳を過ぎても学ぶことが多く唖然とするが、最先端を覗き見るのは快感でもある。

2008年12月8日月曜日

24:GWPのIWRMハンドブックのもう一人の立役者

前回のブログで紹介したGWP/INBO合同のIWRMハンドブックだが良く見るともう一人の重要人物が分かる。セネガル人のDr.ニアッセである。フーパー氏と共にコンサルタントして参加している。

彼は独立コンサルタントだが、WCDガイドライン作成の時はシニア・アドバイザーであった。ここでWCDとIWRMが繋がった。WCDガイドラインが萎んでもIWRMガイドラインが浮上したため持続的開発の精神は引き継がれたのか。

彼の出身であるセネガルにはマリと共にセネガル川流域がある。このセネガル川流域こそ越境河川流域の管理では先進的である。河川構造物の共同運用とO&Mコストのシェアーなど国際河川の管理ではgood practiceとして紹介されている。また、ダムの運用面では、下流の湿地帯保全のために洪水期の無被害洪水量を発電量を犠牲にしても放流した、所謂人工洪水オペレーションを世界でも始めて実施した流域でもある。

実はニアッセ氏は88年から数年間このセネガル川流域のダムの洪水期の最適運用に深く関わってきたことも分かってきた。水商売は世界が狭い。 自身のことでは、過去にお勉強したことがことごとく関連しているのは興味深いし、おばかでも持続的に執拗に取り組むことの意義を認識した。

セネガル出身のコンサルの方が世界のWCDやIWRM運動をリードしていることに驚かされる。

2008年12月7日日曜日

23:IWRMハンドブック作成での海外コンサルタントの活躍

本ブログの12で海外のコンサルでIWRMやwater governanceで特化したDHIのDrフーパーを紹介したと思う。彼はDHIオーストラリアに所属しているが、06年以前はアメリカ・南イリノイ大学の準教授であった。05年には工兵隊IWRから委託研究費を得て、IRBMのパフォーマンスインディケーターに関わる素晴らしい論文を仕上げた。

その後直ぐDHIオーストラリアに移籍。メール交換もさせていただいたことはあったが、最近の活動については知りえなかった。

(素粒子物理学の有名な話ではないが)知りたいと思う意識に、ネットが反応して、知りたい情報を見せてくれることがよくあるのだが、こういう経験は私だけだろうか。

フーパー氏の最近の活躍が意外なところから見つけられた。

GWPはINBOと共同でIWRMに関わるハンドブックを作成中である。もう出来たとは思うが、WWF5で発表するらしい。作成過程の協議議事録を今日を見ていたが、コンサルタントしてこのハンドブック作成に深く関わっていたのだ。GWPやINBOも事務局であるからこうした実務的なハンドブックを作れる人は少ないらしい。コンサルの出番だ。彼は以前ガイドラインはコンセプトだけで十分と言っていたが、今回は商売だから仕方がないのであろう。プロはお客様の依頼には答えるのが常識だから。

彼の経歴から見て、使えるハンドブックの発表を期待しているが、どうであろうか?理論と実践のリンクが見ものである。

水文やダムの世界では、40年以上も使われるマニュアルが存在する。Ven Te Chowの応用水文学ハンドブック、USBRの小ダム設計マニュアルなどなど。

2日ほど前にWWF6の開催候補が公式に2都市になった。WSSDの発祥である南アのDurbanとフランスのマルセイユだ。後者はWWCの本拠地である。オリンピックと同じで投票で決まるのであろうか。

2008年12月6日土曜日

22:コンサルタントもアウェーの戦いを!!

脳科学者の茂木健一郎が脳にアウェー戦を戦わせることで脳を活性化させることが重要と言っていた。

大賛成である。

小生の経験でも、慣れているホーム的な仕事では脳の活性化は不十分であり、慣れない環境下でアウェー戦を強いられるとホーム戦での経験の何倍もの成果が得られると思う。調査で想定されるアウェーの状況は次の通り。

1.JVサブとしてJV幹事の日本のコンサルタントの下で作業をする。
2.JVサブとして欧米のコンサルタントの下で作業をする。
3.JV幹事としてJVサブの欧米のコンサルタントを牽引する。
4.調査団員としての立場が下降したとき。

1.は比較的ある環境で、他社の風土の下で厳しい戦いを強いられることがある。しかし、相手は所詮日本人であり、言葉の問題はない。最大手ほど仕事は厳しい。それを嫌って逃げたら成長はしない。他流試合を知らずに井の中の蛙のままで40代になった人は不幸と思う。

2.欧米のコンサルタントにJVサブとしてお誘いがなければ経験は出来ない。この場合、彼らは日本のコンサルへの信頼が殆どないことが多く、最初から理不尽に小馬鹿にされるケースが多い。そこから底力を発揮して結果をだすことが要求される。言葉の問題(英語力)を解決せねば調査どころではない。多くの人は恥をかきたくないので当然毛嫌いする。そこを積極的に参加していく人が真のコンサルタントになりうる。

3.日本のコンサルタントとして最も過酷な状況である。特に最近は一人団長のケースが多く、身内がいない状況の中でネイティブの団員全てを統率する能力が要求される。最難関のアウェー戦である。残念ながら、最大手のコンサルでも経験者が数人いるかどうかという状況である。

4. 意外に過酷なアウェー戦は、団長をいくつも経験した後にただの団員として参加することである。昔はそんなことはなかったのだが、昨今のコンサル業界低迷などの原因で在り得る環境だ。団長経験者だった優秀な方がある理由でただの団員では自尊心が傷つくかもしれない。しかし、そのアウェー戦を乗り越えられれば健康である限りコンサル稼業を続けることができる。欧米のコンサルは最後まで水文専門家で通す人が普通だ。細く長くコンサルが続けたければ最悪なアウェー戦も面白くなり、専門性を継続させられる。団長ばかり10,20年も続けると専門性という頭脳は退化するだけだ。 WB、ADB、JICAも今は団長も専門性が優先され、団長という管理能力は別途評価されるのが普通だ。専門性が問われない団長は今は昔となったのだ。

小生の場合では30年弱で、1.のケースが3回、2.のケースが2回、3.のケースが1回しかない。4.も何度かあるが、その時の団長さんはさぞやりにくかったかも。

同じ会社の身内だけと仕事を重ねても、所詮はホーム戦である。 昔の大先輩は身内でも大変厳しかったが今は昔である。

また、同じ案件で10年も続けると確実にホーム戦になり、他国でのアウェー戦は苦戦してしまい、適応性は落ちる。

インドネシア、フィリピンなどでホーム戦が長いと離れがたくなる傾向がある。特に居心地のいいインドネシアなどに長くなると、他国での仕事に対する適応性は残念ながら下がるばかりだ。 英語より現地語が得意になったら要注意である。ホーム化の行きすぎになっている兆しだ。

アウェー戦が頑張りと共に次第にホーム戦になり、離れがたくなった時に数年のプロジェクトが終了し、次のアウェー戦へと戦線は続く。これがコンサルの宿命だ。アウェー戦をホーム戦にする時に大きな成長がある。

仕事をホーム化する過程で交渉力や調停力も養われ、IWRM対応でも重要なコンフリクトリスク管理能力が身につくというおまけがついてくる。conflict risk managementについてもいずれご紹介しよう。

2008年12月5日金曜日

21:Incentive Compatibilityとは?

GTZのフッパート博士が昨年書かれた論文を読んでみた。水セクターにおけるincentive compatibilityの必要性を論じている。彼によれば、水資源管理やIWRMにおいてICが基本なコンセプトであるのにもかかわらず無視されているという。

ICはゲーム理論やメカニズムデザインなどの用語で、

誘因一致性
誘因両立性
インセンティブ整合性

などと訳されている。multi objectiveが多目標とか多目的など、訳語に一致が見られないことに似ている。IWRMのIも初期には統合、統合的、総合、総合的と多訳されていた。

さて、上記の漢字訳ですっきり理解できる状況ではなさそうだ。IWRMを想定してすっきりする私的な訳はこうだ。

「各利害関係者が自己の利己的な誘因に従って表明或いは行動した結果が、IWRMの期待された挙動や目的に一致している」

フッパート氏は水統治やIWRMの成功及び失敗する可能性のチェックは5つの段階で分析できると推奨している。

1.IWRMの目標や目的を明確にする。
2.基本的なサービス及び利害関係者間のサービス関係を決定する。
3.適用されたガバナンスメカニズムを確認する。
4.インセンティブの発現に対するガバナンスメカニズムの効果やインセンティブの提供と目標や目的との一致性を評価する。

なるほど。要するにincentive compatibilityが水統治やIWRMの評価指針ということか。フランスの事例の評価結果はまた後日に。久々にゲーム理論や公共経済学をお勉強させていただいた。

2008年12月4日木曜日

20:水文計画の勧め

水文と聞いて何を思い浮かべるであろうか? 聞いて、「水門」と勘違いした先輩もいたが。

水資源の調査計画には欠かせない専門である。ただ、対象が高水と低水ではやや違う。河川計画と貯水池計画の違いである。コンサルとして河川計画に関わって水文を学んだ人と、ダム貯水池計画の水文を学んだ人では水文のとらえ方が全く異なってくる。

小生は後者の水文から貯水池計画へと進んだ。ただし、前者も多く経験したが、やはり低水計画の水文が面白い。

ダム屋にとってダム規模と利用水量との関係は最重要課題であり、水力計画でも同様である。平均利用水量と貯水池容量との関係を示すのがyield-storage curveという。runoff mass curveから求められる関係だが、yieldとstorageとの関係はリニアではない。所謂、パレートオプティマム問題である。流量が一定(実際には季節変動があり実際の河川ではあり得ない)なら貯水池は必要がない。従って貯水容量がゼロでも平均流量が利用できる。これがオプティマム点だ。実際は貯水容量を増加させるとオプティマム点に近づくが、概ね利用流量が平均流量の7割ほどでオプティマム点から遠ざかる。 長期平均流量以上の利用可能流量はあり得ないので、貯水池容量の限界点はある。これを超えて作ったダムがタイなどにあるように思える。ドイツのラーメーヤーは過剰な貯水池容量を有するダムを南米で作ったとも聞いている。中央アジアにもありそうだ。満水しないダムはその傾向がある。

その変曲点付近では、貯水池容量は単年度貯水から経年貯水へと変わる傾向がある。ダムの最適規模決定検討では欧米や日本で昔から良く用いられていた手法である。今はエクセルで検討しているようで職人技はないようだ。

一方、地下水開発でも表流水と同じようにyieldを決定することが重要であり、表流水開発と同じように考えられる。地下の帯水層を貯水池と想定し、rechargeからsafe yieldを求める。 この定義についてはいずれ記述したい。

さて、表流水と地下水のyieldを同じ信頼性で求められれば、表流水と地下水開発を水収支上同じレベルで評価できる。 所謂、conjunctive useだ。脱線だが、アメリカ人は地下水と表流水の利用を対象するが、イギリス人は水源が同じでも複数あればconjunctive useという。英語はいい加減で地域性がある。integratedはフランス人がintegrated EUの発想で”造語”したのではと最近は推測してる。ネイティブの発想ではないのだろうか。

さてさて、ヨルダンなどでは、こうした地下水と表流水を水需要との関係において各々供給量を推定し、将来水需給計画に示している。オーストラリアでは気候変動を考慮して水収支計画を30年渇水対応と変えた。いずれの国ではsafe yieldとは何かという課題にまじめに取り組んでいる。このような水文的なアプローチがIWRMの基礎としているからだ。

一方、サウジアラビアでは既存或いは新規のダム施設や地下水取水施設のsafe yieldは全く言って良いほど求められていない。同時に水供給量の実態も計測せず、且つ実際の水需要も推定できていない。従って、これまで5ヵ年計画で示された水収支計画は水文的なアプローチとは全く無縁な根拠のない数値遊びである。これについて誰も疑問を持たないのが不思議である。

いずれの国もIWRMの推進には積極的だが、水文的な基礎知識に大きな違いがあり、IWRMの成果の違いは明らかだ。

何が言いたいかというと、水文(水文地質も含む)を制するものがIWRMを制するということである。

19:Powerpointの功罪?!

ソフトとしてのPowerpointを非難するつもりは全くない。

問題は最近の研究調査過程での問題である。Powerpointが日本語で商品化されたのは確か1996年ごろである。当時インドネシアで業務中、ITオタクの社員がPowerpointを絶賛してプロジェクトのプレゼンでの利用を推奨していた。

プレゼンでのOHPに効果的な作成は知っていたので、これは使えると思ったものだ。それ以来、コンサルのプレゼンには欠かせないtoolになり、ネットでもダウンロードする頻度も増えた。

それでは罪はなにか?

当たり前の話だが、プレゼンの目的は調査や研究の成果を最も効果的に行なう手段だが、事前の調査検討を十分せず、行き成りPowerpointにする人が増えたということ。事前に十分検討する材料があり、例えば数十枚の論文をまず作成し、サマリーを作り、最後にOHPを作ってプレゼンする過程を当たり前とする小生としては最初からPowerpointを作り始める人はさぞ天才かと思っていた。

実際はそうでもなく、逆解析ならぬ逆なプロセスで後に根拠を積み上げるという工程だ。

そのような思考回路には馴染めないのだが、どうもIWRMもそういう逆の思考で発想しているように見得ることがある。

実体のない仮説に脆弱性あり。

GTZの水資源専門家であるフッパート博士の論文を見つけた。IWRMとwater governanceを題材としたもので、incentive compatibilityを論じている。フランスの事例で解説している。詳細はまた次号以降にて。

2008年12月3日水曜日

18:英語の原書を安く手に入れよう!

最近はネットで簡単に報告書や文献がPDFでダウンロードできるため、中々高いお金と時間をかけて洋書を買う気にならないかもしれない。

インターネットが使える以前は文献(英文)を手に入れることは、その価格と手間の2点で難しかった。最近は事情がちょっと変わった。

この2年で60年代からの水資源関連の本を何冊も手に入れている。Amazon.comのお陰である。大方の著名な書籍は入手できる。中古でも図書館からの廃棄ものが出回っておりネットワークに登録され、amazon.comで検索できる。

81年にあるコンサル会社に入ったが、その当時あるアジアの国の全国水資源開発マスタープラン策定に社内的に利用していたハーバードの水資源システムデザインを昨年手に入れた。20ドル程度だった。自分の原点を見る思いがしたが、その本を30年弱ぶりに手に入れたのだ。そうしたことが可能になったのもamazon.comとVISAカードのお陰だ。古本とは言え、良好な状態。

IWRMの情報でも英語情報が圧倒的に多い。IWRMだけでなく水資源管理を学ぼうとしている若きエンジニアやプランナーはぜひamazon.comを利用して原書を読んで欲しい。

81年に全く理解できなかった原書の内容も30年経つと内容と自身の経験とが合致するのは年の功か。そうしたことを経験するのにもぜひハードカバーを購入されたい。

17:Standing on the shoulder

この慣用句は英語でよく使われる表現である。本の前書きに引用されることが多い。 以前、この慣用句を社内で紹介したが社員からは何の反応もなかったが、アルバイトの日系人の女の子が賛同してくれたことがあった。アメリカ人には馴染みのある言葉だ。

技術や科学の研究では参考文献が重要である。執筆者が過去のどのような研究と関連性があるかを示すことがまずは重要になる。

従って、どの研究者の肩に乗っているかが研究の立場を示すポイントである。小生も新しく目にする論文では必ず参考文献リストを精査するのが普通である。

また、参考文献から新たな新領域が広がることがあり、同時に人脈も広がることに繋がる。

貯水池計画の論文を遡ると19世紀のリップルの貯水池規模決定のためのマスカーブ手法に到達する。水資源システム手法だと前述のハーバード大の本まで繋がる。

さて、IWRMに関わる論文を遡っても原点に繋がらない。それだけ曖昧なのである。

こうした状況を考えるとIWRMでは確固な土台探しが難しくなり、頼りになる「肩」が中々いない。その内、肩になれる世界のベスト5の研究者をご紹介しよう。まだ数人だ。

2008年12月2日火曜日

16:GTZの提案プログラムの不思議

前回でドイツ政府の中央アジア越境水資源管理への支援プログラム発表をご紹介したが、ざっと内容を斜め読みした際に気づいたことがあった。

それは、IWRMとintegrated water resources managementという表現がさりげなく各々1回だけであった。

力説することもなく、無視することもなく、さりげない表現であった。意識してなのか、無意識なのかは不明だが、小生が感じるところではある意味全うなアプローチで構築されている。

ドイツ人らしく、単なる雰囲気ではない実務的なアプローチである。IWRMさえ表明してしまえば後はなんでもありといういい加減さがない。これは本物かもしれない。実直さを感じさせる。

GTZにはIWRMとは何なのか?という正攻法の論文をだした専門家(フパート博士だったか?)がいたがちょっとフォローしてみよう。どうも彼はGTZを離れたようだが。GTZが水政策で支援している国は30カ国以上で70プロジェクトほどあるが、中央アジアでは数少ないし、話題にもなっていなかった。今回の大規模な支援で中央アジアを対象としてどんな成果をだすか大変楽しみである。これはいい案件を見つけた。 ただし、GTZは情報開示が遅れているので報告書類を見ることができない欠点がある。

因みに、ドイツ語ではIWRMは「Integriertes Wasserressourcen-Management」という。おまけに、中国語では、水资源综合管理だという。統合と総合は随分相違があるかも。英語のintegratedとcomprehensiveの違いくらいか。お遊びはこの辺だが、中国では節水とは日本の節水(water saving)とは違い水利用の効率化(water efficiency)だそうだ。

2008年12月1日月曜日

15:ドイツ政府による中央アジア越境水資源管理支援プログラム

中央アジア地域の水資源管理開発にここ3年関わっているが、いよいよGTZの登場である。

93年以来、UNDP、USAID、WB、ADBなどが主導して中央アジア地域の越境水資源管理支援が行なわれてきた。98年にシルダリア合意がなされ越境水資源管理の実践かと思われていたが、各国の自国優先策により頓挫してしまった。そのため上下流のバランスの取れた流域管理はdisintegrateされた。

わが国も川口外相(当時)のご尽力や05年の中央アジア+日本(麻生外相の主導)などがあり水資源分野での技術支援も想定されていた。ここ3年国際機関の支援も低迷していたので日本が主導していくチャンスが大きかった。

そこにドイツ政府の登場である。今年4月1日にベルリンで中央アジア水資源問題への支援が大々的に発表されその動向が気にはなっていた。

昨月の中旬にカザフのアルマータでUN主催の国際会議があり、その中でドイツ政府(GTZが担当)の支援プログラムの詳細が明らかになった。

3つのコンポーネントからなり、

1.水資源管理に関わる地域連携
2.越境河川流域に関わる流域一貫のアプローチの実践
3.水管理改善のための国家パイロット事業

の基で、09年から11年までのプログラムが公開された。以前にも述べたが今年から来年にかけてシルダリア川流域の渇水が懸念され、水資源、エネルギー及び食糧危機が叫ばれている中でのタイミングのいい登場である。

今や水資源問題は多国間に亘る問題でありRETAの実施が必須である。こうした多国間に亘る技術支援の可能性を模索せねばならない時期なのであろう。

これから3年間の成果をフォローし、途中で頓挫しないことを祈るばかりである。