水文と聞いて何を思い浮かべるであろうか? 聞いて、「水門」と勘違いした先輩もいたが。
水資源の調査計画には欠かせない専門である。ただ、対象が高水と低水ではやや違う。河川計画と貯水池計画の違いである。コンサルとして河川計画に関わって水文を学んだ人と、ダム貯水池計画の水文を学んだ人では水文のとらえ方が全く異なってくる。
小生は後者の水文から貯水池計画へと進んだ。ただし、前者も多く経験したが、やはり低水計画の水文が面白い。
ダム屋にとってダム規模と利用水量との関係は最重要課題であり、水力計画でも同様である。平均利用水量と貯水池容量との関係を示すのがyield-storage curveという。runoff mass curveから求められる関係だが、yieldとstorageとの関係はリニアではない。所謂、パレートオプティマム問題である。流量が一定(実際には季節変動があり実際の河川ではあり得ない)なら貯水池は必要がない。従って貯水容量がゼロでも平均流量が利用できる。これがオプティマム点だ。実際は貯水容量を増加させるとオプティマム点に近づくが、概ね利用流量が平均流量の7割ほどでオプティマム点から遠ざかる。 長期平均流量以上の利用可能流量はあり得ないので、貯水池容量の限界点はある。これを超えて作ったダムがタイなどにあるように思える。ドイツのラーメーヤーは過剰な貯水池容量を有するダムを南米で作ったとも聞いている。中央アジアにもありそうだ。満水しないダムはその傾向がある。
その変曲点付近では、貯水池容量は単年度貯水から経年貯水へと変わる傾向がある。ダムの最適規模決定検討では欧米や日本で昔から良く用いられていた手法である。今はエクセルで検討しているようで職人技はないようだ。
一方、地下水開発でも表流水と同じようにyieldを決定することが重要であり、表流水開発と同じように考えられる。地下の帯水層を貯水池と想定し、rechargeからsafe yieldを求める。 この定義についてはいずれ記述したい。
さて、表流水と地下水のyieldを同じ信頼性で求められれば、表流水と地下水開発を水収支上同じレベルで評価できる。 所謂、conjunctive useだ。脱線だが、アメリカ人は地下水と表流水の利用を対象するが、イギリス人は水源が同じでも複数あればconjunctive useという。英語はいい加減で地域性がある。integratedはフランス人がintegrated EUの発想で”造語”したのではと最近は推測してる。ネイティブの発想ではないのだろうか。
さてさて、ヨルダンなどでは、こうした地下水と表流水を水需要との関係において各々供給量を推定し、将来水需給計画に示している。オーストラリアでは気候変動を考慮して水収支計画を30年渇水対応と変えた。いずれの国ではsafe yieldとは何かという課題にまじめに取り組んでいる。このような水文的なアプローチがIWRMの基礎としているからだ。
一方、サウジアラビアでは既存或いは新規のダム施設や地下水取水施設のsafe yieldは全く言って良いほど求められていない。同時に水供給量の実態も計測せず、且つ実際の水需要も推定できていない。従って、これまで5ヵ年計画で示された水収支計画は水文的なアプローチとは全く無縁な根拠のない数値遊びである。これについて誰も疑問を持たないのが不思議である。
いずれの国もIWRMの推進には積極的だが、水文的な基礎知識に大きな違いがあり、IWRMの成果の違いは明らかだ。
何が言いたいかというと、水文(水文地質も含む)を制するものがIWRMを制するということである。
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