2010年9月26日日曜日

813:風が吹くとホテルの日本人客が一人減る

コンサルタントと云う仕事は因果な商売で、直感的、断定的なことはまず言えない。政治家など意思決定者はなんでも言って結構である。

意思決定者に助言し、最適案などを提示する役目を賜るコンサルタントは、たとえ専門家としての経験や専門的知識から見て、直感的にいい悪いなどの妥当性が直ぐ分かっても、軽々しくあっさりと結論を言ってはいけない。素人目に見て、専門家と言われる方が現場に行ってズバリ結論的なことを云うと、流石に専門家と思ってしまうが、これは国際的な専門家とは言えない。

ゼネコンの人に言わせると、傲慢で根拠なく喚くコンサルの所長は意外と対応しやすいそうだ。思慮深く入念な物言いをする良識的なコンサルだとかなりゼネコンにとっては遣りにくいという。ある意味、実利的なゼネコンさんの発想である。傲慢なコンサルに限ってずぼらだから。

コンサルの中でも、もっとも直感で発言する傾向のある専門家は、地質や地下水に携わる方々だ。ここ掘れワンワンではないが、現場を見て直ぐ金山を探し当てたような発言をする。流石に山師である。

雑談的なお話として伺っている分には面白いが、土木屋にとっては誰でもが了解する根拠を求めているのだ。

さて、前置きはこの辺で。

先日ある地質屋さんが訪れた。専門は水理地質なんだろうが、元々は多分地質屋さんだと思う。その方は、いろいろ気さくに話される面白い方で話していて飽きない。落語家さんみたいで。

ただ、ホテルの居住性に関しては結構うるさい。

‐僕はベットで横になって本を読んでいてそのまま寝る習慣があるので、ベットの照明のスイッチはすぐそばにしてほしい。

‐風呂に入ろうとしたが、止め栓がないんだよ。

‐6時にレストランに行ったらまだやっていない。

僕はマネージャーではないのでどうも返答しづらい。

ご帰国になる寸前には、こんな愉快な事件があった。

彼曰く、昼夜関係なく、どこからかドンドンと叩く音がして眠れないし、気になってしょうがない。多分、誰かが別の部屋に閉じ込められて、出してくれと必死に叩いているに違いない。誰かが誘拐され監禁されているんじゃないかな。このホテルやばいよ。ホテル側に言っても何にも解決しない、と大分怒っていらっしゃる。

さてー、僕もこのホテルには平穏に1年半居住しているが、それほどの怪奇な音の経験はない。結局、それが何だったか彼は承知することもなくご帰国された。

あれから数週間、それらしき音の正体が気になっていた。地質屋さんの文学的な想像力はないが、土木屋としての事実の徹底確認の習性は強いので決して忘れてはいない。

今日は大変風が強い一日だった。特に窓を開けているので風が吹き込んでくる。そんな時、彼が言っていたような音がしている。どんどん、ドンドンドン。。。。

何のことはない。窓から外の屋根を見上げると安普請のトタン屋根のトタンが少しはがれているので、風が吹くと鳴るという単純な科学的現象だった。

やはり地質屋さんは空中を見上げることよりも、見ることのできない地中がお好きなのかもしれない。誰も見れないしね。

彼はもう絶対にこのホテルに泊まることはない。(了)

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